「哀れな船乗りを助けてくれないか?」
嵐の夜、そう言ってその男 ー サッカレーはやってきた。全身ずぶ濡れで、まるでたった今海から上がってきたみたいに。
薬を買いに出て行った父の帰りを待つ間、謎の男・サッカレーが話す怪談に耳を傾ける”ぼく”と妹のキャシーは、次第に恐ろしくて残酷な海の話の虜になっていく・・。
2025年が始まってまだ2ヵ月ほどですが、早くも今年出会った本の中で「これはめっちゃオススメ!!」と叫びたくなる短編集に出会いました。
『船乗りサッカレーの怖い話』です。
1話完結の短編が11話収録されており、ドラキュラ、幽霊船、かたつむりなど、バラエティ豊かな怪奇譚が詰まった一冊です。
【▼以下は微ネタバレです。本作を先に読むことをお勧めします!】
いわゆる現代的なホラーではなく、怪奇短編集という言葉がぴったりの本作品。
じわじわと恐怖が迫る話もあれば、読後にしんみりとした余韻が残るものもあり、一つ一つが緻密に練られた名作ぞろいです。
特に後半はストーリーが深まり、謎の男・サッカレーのみならず、話を聞く兄妹たちの真実も明らかになっていきます。
序盤は子どもだましの軽い怪談か?と思いきや、どんどんアクセルがかかり、最後には恐ろしくも切ないクライマックスへ——
ちなみに、同じ作者による『モンタギューおじさんの怖い話』という短編集もあるよ。
実はこの”モンタギューおじさん”、『船乗りサッカレーの怖い話』のラストにカメオ出演しており、世界観がつながっているのも面白いポイントです。
↓特に印象に残った短編はこちら
◆「かたつむり」
かたつむりといえば、のろのろと歩く小さな生き物のイメージ。
しかし、この作品では”海”に持ち込まれることで、その存在が一変します。
臨場感ある文章のおかげで、必要以上に痛みを想像してしまうので注意。まさかカタツムリに対して痛い痛い痛い!!怖い!!!と恐怖する日が来るとは・・。
◆「泥」
これは結局、上述トリックだったのか?
最初から最後まで不穏な空気が漂う本作、私は何回か読まないとラストシーンがどうなっているのかわけわかめでした。(海だけに)(やかましわ)
◆「猿」
“猿”と聞くと、”猿の手”という超絶不気味な怪奇ホラー小説を思い出してしまう。
猿の不気味さに気を取られがちですが、この物語で船上を混乱に陥れた本当の”敵”は猿ではなく……。
思わぬ方向へと転がる展開に、息を呑みます。
◆「トリカブト」
最終話にしてエピローグ。
謎の男・サッカレーの怪談に聞き入る兄妹は、いつまで経っても帰らない父親のことを不審に思い始めます。
断崖の家で父親を待ち続ける二人——そこで明かされる”真実”とは。
この短編集がただ怖いだけでなく、どこか切なさや余韻を残す理由が、この話にあるのかもしれません。そして、ここに”モンタギューおじさん”の影が……。
▼ホラー好きはもちろん、じっくりと味わいたい怪奇譚を求める方に!ぜひ手に取ってほしい一冊です。
▼エドワードゴーリーっぽい絵だね。
▼そしてこちらはエドワード・ゴーリー。さらっと読めるおススメの怪奇小説譚です。「猿の手」も読めます。