黒沢清監督と言えば赤い不気味な女の霊、というイメージですが、この映画にも出てきます。うろ覚えですが、学校の怪談で赤い女が初登場して以来、ジャパニーズホラーにはこのビジュアルの女の霊が頻出するようになった気がします。
【↓ 以下は映画の内容を盛大にネタバレしているので、未鑑賞の方は先に映画を観てからブログを読んでね!】
黒沢映画にはお馴染みの赤い女の霊とか、ただそこにいる霊とか、妙に薄暗い空間とか、恐怖演出は色々あるんですけれども、一番怖いのは人間の欲だなということがよくわかる映画です。
霊が視える妻・純子(風吹ジュン)と、効果音技師の夫・克彦(役所広司)。
純子は自分の霊能力に今一つ自信が持てず、ファミリーレストランでのアルバイトを始めます。ここでかの有名な赤い服の霊が現れる。怖すぎて純子は震えが止まらず、コーヒーをこぼしてしまう。
圧倒的な邪悪をまとう霊を前に、「視えていることに気づかれてはならない」という純子の思いが窺い知れそうな恐怖演技です。
【↓ 赤い女の霊のシーンです。顔の判別がつかないところなんかリアルですよね。】
一方、公園では怪しげな男が女児を言葉巧みに誘い、誘拐事件が発生。
純子の霊視により、誘拐された少女がなぜか夫・克彦のアタッシュケースに隠れていたことが判明します。しかし、この後あろうことか純子と克彦は、警察に通報したり救急車を呼んだりせず、事件を利用して降霊術の能力を世に知らしめようと企てるのです。
瀕死の少女を部屋に閉じ込め、あたかも霊視で証拠品を発見したかのように偽装する純子たち。結果少女は本当に命を落としてしまい、夫婦は少女の遺体を隠蔽しようと動きます。
これ以降、少女の幽霊が家の中や外出先に現れるようになります。純子の肩に不意にだらりと垂れた少女の腕が出現して、本当に自然すぎてビビる。
少女の霊は次第に夫婦の生活を脅かし、夫婦は精神的にも追い詰められていきます。
物語の終盤では、克彦が急にキレて暴れまくります。少女の霊を前にボコボコに叩き、懺悔するどころかキレ散らかし、自分のドッペルゲンガーに火をつけたりする。
霊に物理的攻撃で反撃する克彦。
ラストシーンでは結局夫婦の悪事が露呈するんですけど、
純子の「名声欲」や克彦の「無関心さ」など、人間の愚かさや身勝手さが生み出す悲劇が一番怖いなぁと思いました。
あと、途中でお祓いの坊さん(哀川翔)が克彦宅にやってくるのですが、この人がふわっとした助言を克彦に残して去っていきます。
日々慎ましく生きる者には平穏が訪れるとか、平凡を恐れるなとか。
しかしこれが、慎ましく生きる道を捨てた克彦には痛いほど刺さる言葉です。
クライマックスの克彦の暴走や純子のヒステリックな姿に、人間の業の深さを思い知らされます。単なる心霊ホラー映画の枠を超えた重厚さがある作品でした。
【↓ 交霊会コットンTシャツってなんだろう・・・?】
【↓ 黒沢ホラー映画にはもはや定番と化した、画面の隅に映り込む霊たちにほっこりします。】