宇佐美まこと氏によるホラー小説『角の生えた帽子』の感想。
じわじわと心を侵食する怖さが魅力の12編からなるホラー短編集です。
この作者さんは背景描写に臨場感があるため、まるで自分がその場にいるかのような感覚に陥(おちい)ります。
物理的な攻撃を仕掛けてくる霊とか、殺人鬼が潜む館でのデスゲームとかはありませんが、日常に潜む仄暗い感情を描くのがとても上手な作家さんです。
特に印象に残ったのは「城山界隈奇譚」。
作者の出生地・松山を舞台にした作品です。この話、一見ほっこり系かと思いきや、後半で一気に不気味な展開に変わるのです。
物語は、図書館司書の女性と彼女と親しくなる女学生が、オカルト趣味をきっかけに交流を深めるところから始まります。二人は霊が出ると噂の場所を一緒に検証しに行ったり、怖い話に花を咲かせたりと、序盤は穏やかな雰囲気。
しかし、後半になると、行動を共にしていた司書さんの存在が徐々に曖昧になっていきます。
歴代の集合写真に写る司書さんの姿。何年経っても、全く変わらない姿で写真の端っこに映り込む彼女。めっちゃ気味悪いラストでした。
私は夜中の2時ごろに読んでしまったせいもあり、なおさらゾッとしました。
また、宇佐美氏の短編には、妙に生々しい「邪悪な他人」と「暗い場所」が随所に登場します。たとえば、
- 変質者のおっさん
- 自分勝手な男
- そしてその男が連れてくる全く可愛げのない犬
- 寂れた平屋建て
- それに付随する、猫の額ほどの陰鬱な庭・・とかね。
日本の日常に潜む "落ち込みスポット" を熟知している作家さんです。
こうした存在が日常の悪意として随所に存在しており、それにからめ取られる登場人物たち。リアルにいそうな嫌な人たちの気配が強烈に伝わってくるんですよね。
表題の「角の生えた帽子」とは、一話目の「悪魔の帽子」に登場する主人公の青年が、工場で作っている電子部品に由来するものと思われます。この青年が夢で連続殺人をおかすのですが、現実の事件とリンクしていて・・。
このお話には叙述トリックが仕込まれており、犯人の正体に意表を突かれます。
▼短編集全体にホラー描写が散りばめられており、『世にも奇妙な物語』っぽい雰囲気を楽しみたい方におすすめの一冊です!